泥舟さん日記⑱『沈没船にはお宝がいっぱい』~ノンフィクション風ビジネス血風録~

泥舟さん日記です。

深く考えず、軽い気持ちでお読みください。

※文面は、サポーテストで再構成しております。あくまでもフィクションですので、ここに出てくる人物・会社・団体名は存在しません。「ノンフィクション風」ということでご理解いただければ。

「会社とはなんぞや?」と考え始めて数年間、様々な職種の方々に、その疑問に対する言葉を聞きかじりながらまとめております。
文章のみですので、それぞれで捉え方をしていただきたく、深く考えず軽い気持ちで想像力を働かしながらお読みください。

~「泥舟日記」より~

その18「新規事業会議に行ってきたよ③」

5月

新規事業を提案するために設けられたプロジェクトチームが発足して数か月が過ぎ、いよいよ新規事業の提案をする時がやってきた。

メンバーは通常の業務をこなしながら、ときには就業時間外に何度もミーティングをおこないながら
少しでも会社の将来が希望を持てるように、少しでも早く新事業が軌道に乗るように
どうにかこうにか「事業の提案」をまとめ、発表することとなった。
 
ほとんどのメンバーが「自分の仕事」しかしたことがないので
そこから新たな事業構想や会社の全体像を見て考えるには相当の苦労があったと思う。

かくいう俺もそのうちの一人だ。

しかし、参加したことによって何か会社経営に対する考え方や見方が変わった気もする。
ただ本音を言わしてもらえば、もう少し本気で考える時間が欲しかったとも思う。
 
ちなみに、座長代理のコンサルタントの先生との意見には温度差は感じていたものの、最終的には我々側の提案に同意してくれたように思えたが…。


はたして経営陣の感触はどうなんだろうか?

我々の提案にゴーサインを出してくれるのだろうか…?

入室前に、プレゼンテーションをおこなうリーダーは緊張しているのがすぐわかる。            人前で話すのが苦手なメンバーは想定問答に余念がない。

不安そうなメンバーを前に、コンサルタントの先生が言った。

「あとは、あなた方の情熱次第です。さあいきましょう」


さあ勝負だ。一生懸命頑張ったんだ。これまで話もしたことがないメンバーが、自身の経験と知恵を持ち合って会社の新規事業を提案するに至ったんだ。会社ではあまり感情を出さないようにしている俺も、おそらく不安な顔色を窺わせていたんだろうと思う…





そして

「はーっ(ため息)」

そんな心配も祈りも、会議室の空気にふれた時、全て別のどこかに吹っ飛んでいってしまった。
 
決定権の持つと思われる社長は不在、いるのは取締役部長クラスのみ。本来なら座長のはずの営業担当重役もいない。彼らは「なんで俺が出席しないといけないんだ。忙しいから早くしろよ」とでも言いたげな貧乏ゆすりだけが目立つ。
 
完全アウェイの中でプレゼンテーション終了後、まったく気持ちのこもっていないねぎらいと、我々の努力を逆なでするかのようなとんちんかんな質問。
 
そして、我々の提案を「取締役会にかけるまでもない」とも取れるような物言い。

あげくに、彼らから出た言葉は

「それよりも、新規事業は○○にするってのはどうだ?」

「それがいい」と呼応するとんちんかんな面々。 
 

その瞬間「完全な出来レース」と気づいた。

「情熱次第」とか言っていたコンサルの座長代理もおおよそグルだったんだろう。

後に、オフレコで聞いた話だが
新規事業構想については、経営陣の中では方向性がすでに決まっており、コンサルを使って我々を取り込もうとしたが失敗に終わり、提案も却下させた…そうだ。


なぜ、わざわざ我々社員を集めてまでプロジェクトチームを作ったのは「社員を集めたところで、座長である重役やコンサルの主導だけで彼らからは何の提案もできないだろ」と高をくくっていたものの、プロジェクトチームが予想外の「健闘」をしたことで、「禍根を残す潰し方」になったとのことだった。


まさしくその通りで、終了後に我々の成果を経営陣が持ち帰りもされず、まして吟味もされず、まるで人格まで否定されたかのような心地になり、脱力感しかない全メンバーの中にはうなだれて涙をためている者もいれば、有休を取り、しばらく出社しない者もいた。
 

寸暇を惜しんで参加したミーティングや、たとえ少しでも会社の将来を真剣に考えて日に日に熱くなっていった議論もすべてムダ…というより「何もなかったこと」すなわちゼロになり、会社的にこの日はいつも通りの「たわいもない普通の日」になった。
 
ちなみに会議に出席されていた名もない小役員様たちが「台本通りに」口にした提案はすぐに承認され新・新規事業準備室が発足されたのであった。


もちろん以前のプロジェクトチームから参加した人間はいない。
 
  
会議終了後、メンバーの一人と交わした言葉を思い出す。

「我々の苦労が台無しになってしまった理不尽さには正直恨みさえ覚えるが、このミーティングに参加しなければ、会社がこんな状況になっていることすら知らなかった。入社して経営のことなど何も考えなくても普通に定年を全うできるような会社だと思っていた」と。


会社に対する気持ちがさらに消えかけているが、会社のことを真剣に考える人間が数人増えたことだけが救いだったと思う。


今月のわかったこと
「出口の見えない長いトンネルを作った人達だけで考えそうなことは、結果的にトンネル延伸計画になってしまっている」

2023年01月28日